2010年11月26日金曜日

『近代下層民衆生活誌Ⅰ貧民街』~賣笑婦の研究

 
※前回、同書「浮浪者の実情

「賣笑婦=売春婦」である。

以前、釜ヶ崎に行った時、女性の浮浪者が少ないことに気づいた()。あれも男社会なのだと知った。
“浮浪野宿者の大部分は男であつて、女で野宿をしてる様な窮困のものは極めて少數である。それでその少數の女は、大抵盛りを過ぎた四拾以上のもので、…
…さうでない年の若い女であると、狂人か白痴など精神異常者と見るべきものである。然し野宿者の中に拾二人の女があつたが、此中で年の若いものは三人であつた。その一人は家庭不和から飛出した人妻であり、一人は宿賃を倹約するため停車場構内に寝臥せる女旅人、…
…他の一人は父に随伴して浮浪を共にする哀れな少女であつたのである。畢竟するに、女の野宿もの拾二人の中で、純良なるものは此少女一人のみであつて、他は總て不純なものと見做すべきものである。”

昭和3年の当時、女性の浮浪者が少なかった理由は、芸妓や娼妓など身体を売って(売らされて)夜露をしのぐ者が多かったという事情。もしかすると、今尚そうなのかもしれない。(

奈良時代以前から遊行女、遊女、白拍子、傀儡女(くぐつめ)などと、売春婦はいて、ランクがあったとか。
時代を経て、遊女と傀儡女の区別が無くなり、鎌倉時代には貧しさから身売りという、いわゆる人身売買が既に行われていたらしい。公娼制度もこの時代に具体化したそうで、足利氏の時代になると「遊女に課税した」とある。(この課税が、遊女が払った税金なのか、遊女を買った時に払った税金なのか、ちょっとわからない。)
足利氏が衰退して、公娼制度は廃れたのか、その後公娼が復活するのは秀吉が天下統一してからになる。その後は江戸、明治…と、公娼は時代の雰囲気に合わせて、あれこれ制度を改めながら続いていたそうだ。

と見ていくと、こういった身売りや人身売買は、いわば文化なのだな、と納得してしまいそうだが、明治3年に政府から出されたお触れを見ると、それまで行われていた人身売買の凄惨な様が伺える。
「娼妓芸妓は牛や馬だから、牛や馬に人間様の使う金の返済を要求してもしかたないでしょ」てなことを、文明開化直後に政府のお触れで言ってのける有様。
第一条
人身を売買致し又は年期を限り其主人の存意に任せ虐使致候は人倫に背き有るまじき事につき古来禁制のところ従来年期奉公等種々の名目を以て奉公住み致させ其実売買同様の所業に至り以ての外の事に付き自今厳禁さるべきこと

同上の娼妓芸妓は人身の権利を失ふものにして牛馬に異ならず、人より牛馬に物の返済を求むる理なし故に従来同上の娼妓芸妓へ貸す所の金銭並に売掛滞金等は一切債るべからず但し本月二日以来の分は此限りにあらず

人の子女を金銭上より養女の名目なしに娼妓芸妓の所為をなさしむる者は其実際上則ち人身売買につき従前より厳重の所置に及ぶべき事
上のとおり、「でも、今月の二日後からのお金は牛や馬でも支払いなさいよ」てなことで、遊女屋は貸座敷と名前を改めただけで、娼妓は「絶対的隷属者でない」名目で、脈々と続いていったそうな。『吉原炎上』の世界である。
自ら売春の道を志望した数は僅かで、親に売られた、親は無く養父母に売られた等々、「おまんこは金になる()」という事情。

そしてこの研究は、以下のように結ばれている。
“然しながら実際に於ては、今と昔、西洋と東洋、其何れを問はず、売淫の存在せざるはなく、由つて来る根底は、社会組織の欠陥と人間本能の放埓に所以するのであり、吾児を物品化せざるべからざるまで苦境に呻吟する如き経済的弱者の存する限りは、如何にしても避くることの出来ざる社会現象である。…
…売淫の問題は、醜陋面を覆はしむるが如き問題ではあるが、扨て其係る所を見るに、却々廣く、従って世の教育家も政治家も社会改良家も共に之れを攻究し、最善の方策を樹て、廃娼を是とするならば、それを断行し、若し廃娼尚早ならば娼妓の生活を向上させるために制度を改善し、彼の桎梏の悩みから救はねばならぬ。…
…上走りの議論では、此問題は解決し能はざるのみならず其方策と施設を誤まれば、反つて社会に与へる惨害は、甚しいのであらうと思ふ。”

突っ込みどころが色々とある文献だった。
そして執筆したのが役人だからか、公娼には甘いが、公の認可を受けずに営業していた私娼については「淫奔、怠惰、浮薄などから淪落の女となつた」などと、ボロクソにこき下ろしていたのが、ある意味印象深かった。
 

1 件のコメント:

  1. Mobius Rebellius2010年11月26日 23:11

    現在のホームレスの8割程(昨年、生活保護認定がスムーズになってから、変化ありますが)が50〜65歳男性に固まる(神奈川県の調査がかなり有効)のは、
    就労と福祉の谷間の世代であり、
    「男は人様の厄介になってはならない」という、
    刷り込まれ続けた意識のためです。

    夜回りしてて、生保の申請を、と言っても、
    「絶対に国のお世話にはならない」と、
    意地をはる人がものすごく多いです。

    怠け者ではなく、真面目な働き者だから、
    野宿者になります。

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